2009-03-19
■ [妄想軍集団] 純文化的外交戦略

肩に乗った雪を払い落とすと、男の青い目が、すばやく店内を見回した。
黒いコートに覆われた身体はやや肥満の兆候が見られるが、ロシア人の基準から言えば、取り立てて太っているとは言われない体型だ。帽子を脱いだ下から、ぴったりと撫で付けた金髪があらわれた。
男の視線が、店の奥まった一席で止まる。
東洋人だった。髪を短く刈り込み、細いフレームの眼鏡をかけている。男と目が合った瞬間、小さく頷いて見せた。
男はいささか足早に、東洋人のいる席まで歩いていった。その途中で、首に巻いていたマフラーも外す。
「よく降るね」
東洋人が流暢なロシア語で、男に話しかけた。席に着き、帽子とマフラーを脇に置いた男が、気楽な調子でそれに答える。
「湿った雪だ…こんな雪が降るってことは、モスクワにも春が近いってことだな。俺としちゃ憂鬱な話だがね」
「そりゃ、どうしてだい」
ウェイトレスに紅茶を注文して、男は向き直った。
「泥柳だよ。五月あたりになると、あれが一斉に綿毛を飛ばすんだ。おかげでモスクワ中が花粉症さ。俺も例外じゃない」
思い出しただけで鼻がむず痒くなったのか、男が大きく顔をしかめる。東洋人はそれを見て笑った。
「どこも事情は同じだな。東京は杉で、三月だけどね」
「里帰りはどうだった」
机に肘を突き、男が尋ねる。
「多少はゆっくりできたか」
「全然だよ。実家に顔を出した以外は。出先と本省を行ったり来たりさ」
「日本人は働きすぎだ…今はそうでもないとお前は言うが、俺には信じられん。そんなに仕事が好きか」
東洋人…日本人の男はわずかに苦笑すると、まあ、人それぞれだ、と言った。
運ばれてきた紅茶に男が口をつけたところで、日本人が思い出したように口を開いた。
「そうそう、君がいつか言っていたアレ、実は日本にいるうちに探してみたんだ」
「何だって?」
男が目をむいて、口につけていたカップを下ろし端に寄せる。日本人は、席の脇においてあった紙袋を男の前に差し出した。
興奮した手つきで、男が紙袋の中に手を突っ込む。
中に入っていたのは、透明なビニール袋で梱包された小さな人形だった。手足が分割され、ほかにも小さなパーツ類が付属している。明らかに、少女と銃をモチーフにしたものだ。
男の口から、低いロシア語の祈りの言葉が漏れた。
「うちの後輩なんかにも探させたんだが…二期が決まって、いくらか品薄になってる様でね。けっこう苦労したよ」
男は、もはや相手の言葉など耳に入らない様子だった。忘我の表情で紙袋の中を見つめていたが、突然、声を上げてその中をかき回し始めた。
「サーニャ!サーニャはどこだ!わが祖国の妖精は!」
一瞬で興奮状態になった男に、周囲の客が数人、こちらに怪訝そうな視線を向ける。
「落ち着け!声が大きい!……ほら、サーニャはこれだ」
「おお…サーニャ……」
男は、まるでそれが聖遺物でもあるかのように、ビニール袋に入った小さな人形を凝視した。
納得のいくまで眺めると、ひとつ大きなため息をつく。
「…つくづく思うよ。俺はどうして日本人に生まれなかったんだろうってな」
そう言って店の窓から、雪の降りしきるモスクワの街路を眺めた。
「日本の大使館にいたころが懐かしい…秋葉原は目と鼻の先だった。モスクワは、あの街からは遠すぎる」
余人には想像し得ないであろう男の慨嘆を、日本人は苦笑いしながら慰めた。
「まあ、また何かあったら言ってほしい。可能な限り話は聞くよ。
そのフィギュア、一応3セット入ってるから、何なら友人にでもプレゼントしてくれ」
「ありがとう。これで俺の面目も立つ」
男は慎重な手つきで紙袋を床に下ろし、足の間にしっかりと設置した。
しばらく、紅茶のカップが立てる音だけが、二人の間を交差した。
「ところで」
沈黙を破ったのは、日本人のほうだった。
「しばらくモスクワを留守にしていた訳なんだが…そっちでは何か、面白い話はあったかい?」
「……そうだな…」
男は店に入ってきたときのように、周囲をすばやく見回すと、わずかに背を屈め、低い声でこう言った。
「金正日は死んでるよ。確かな筋からの情報だ」
2009-01-31
■ [日々命令] 長靴談義

ふと、「『ヘタリア』にイスラエルは出ているのか」という疑問が脳内に提示されたので、早速google先生にお伺いを立てる。
http://www.geocities.jp/himaruya/char.html
http://hetalia.com/character/index.htm
ざっと見ただけだと、出てないみたいですね。
キャラ表に居ないだけかもしれませんが、原作を一つ一つ洗うのはめんどくさいので却下。
イスラエルの不在に加え、イスラムの強い国がトルコとエジプトくらいしか出ていない事を鑑みるに、製作サイド*1も最低限のリスクマネジメントはやっていたという事でしょうか。
そう考えると、過日の騒ぎは彼らにとって側背を衝かれたように感じられた事でしょう。「急に抗議が来たので」。
*1:原作者含む
2009-01-17
■ [妄想軍集団] シオンの悪鬼

- 佐藤
- (前略)「我々はホロコーストで六〇〇万人が死んだ。我々はこの教訓から、全世界に同情されながら死に絶えるよりも、全世界を敵に回して生き残ることを選ぶ」
- これが今でもイスラエル人のコンセンサスだと思うんですが、九・一一以後、この言葉はかなりのアメリカ人の琴線に触れたんじゃないでしょうか。
「ガザのパレスチナ人を絶滅させようとしている」
1月13日、パレスチナ自治政府アッバス議長の声明
割れた鏡の中の世界は、赤く染まっている。
嵐が通り過ぎたように荒廃した部屋。それでいて、昼の光が差し込む室内は奇妙に明るく、日向と物陰のコントラストを強烈に映しだしていた。
部屋のいたるところを赤く染めているのは、撃ち砕かれた人体と、その血飛沫だ。撃ち抜かれた天井から注ぐ光を、乾ききらない血が生々しく照り返している。
男は、しばらくのあいだ鏡の世界を凝視していたが、やがてゆっくりと振り返った。
寸分たがわぬ光景がそこにある。
部屋にいたのは三人だった。男が二人に、女が一人。攻撃ヘリの猛射を受けてほぼ原形をとどめていないが、頭部が残っていたので、そう判別できた。
彼らが「テロリスト」だったのか、それとも単なる一般市民に過ぎなかったのか、もう知る術はない。そもそも、そのような選別そのものを、男と、男の仕える軍隊は必要としていなかった。
男の敵が、最大の武器とするもの。それは不可視性に他ならない。
判別のためのアイコンを持たず、人の群に混じって不可視となることで、不特定多数の市民と言う盾を得る…それが敵の戦術だ。都市環境を利用した擬態、人間迷彩とでも言うべきこの戦術が、敵の恃む最大の武器なのだ。
それならば、と男は思う。
敵が人間の森に潜りこみ、その身を隠すというのならば、森そのものを焼き払うのに、何の躊躇がいるだろうか。
歴史上、戦術家の頭を悩まし続ける市街戦、対ゲリラ戦という状況において、ある程度の効果を挙げられる唯一の方法。敵に対してそれを行うのに、何を逡巡することがあるのか。
敵はこれを聖戦だという。
だが男にとって、これは聖戦などという抽象的なものではなく、より鮮明で、具体的な意味を持つ行為に他ならない。
これは生存競争だ。
三千年にわたる流浪の歴史と、その総決算としての大虐殺。そして、受苦の歴史の末に勝ち得た、砂漠の片隅の小さな国土。
歴史は、繰り返されてはならない。
少なくとも、我々の歴史だけは、繰り返すことを許さない…男はそう考えていた。
そのために、二度と自分たちが弱者にならないために、我々は恐れられなければならない。
我々に一弾を放てば、万の砲弾が降り注ぐ。我々を一人殺せば、一族郎党が死に絶える。そういった方程式を組み上げ、維持していくこと無くしては、我々は強者には成りえない。
だから俺は、と男は思う。
俺は、悪鬼であることを許容する。
自分が恐れられ、憎まれ、それゆえにどこかの路上で敵弾に倒れるのであれば、それが悪鬼の務めなのだ。次の三千年を、再び弱者の歴史としないためならば、その程度の務めがなんであろうか。悪魔、虐殺者と蔑まれることに、いくらの恐れがあるものか。
そもそも、我々を虐殺し続けたのは、我々以外の者たちではないか。
いまさら、我々がそこに名を連ねることに、一体誰が異を唱えられるというのか。
男は思う。
たとえ、我々の次の三千年が、血で汚れていようとも、
それを我々自身の目で確かめることが出来るのなら、我々はそれを選ぶのだ、と。
雷鳴のような音とともに、天井に開いた破孔から埃がこぼれ落ちた。
立て続けに響く轟音を聞いて、男がゆっくりと踵を返す。
足元に散らばる様々な破片を、重い軍靴の爪先で掻き分け、男は部屋から立ち去った。
床を覆った肉片交じりの血溜りを踏み越えるその足取りに、一片の躊躇も無かった。
2009-01-15
■ [参戦記録][戦略外交] 降臨賞after

65ポイントの下賜、有り難くあります。
賞の後、いささかの紛糾があったようですが、どうやら収拾を見た模様。
id:xx-internet、id:north2015の両氏から、「引き合いに出して申し訳ない」という旨のお言葉を頂きましたが、どうかお気になさらず。
久々の投稿、面白かったです。
いつものように、事が終わった後になって、あの手もあったこの手もあったと後悔することしきりですが、まあ今後のネタにでも混ぜていこうと思います。
「アーリア人種=空から降ってきた少女の子孫」説に、ヒムラー、メンゲレあたりを絡めて何か…いや、無責任なことは言うまい。
今年の新作アニメをぼちぼち観ていますが、少女が降ってくるものはあまり無いようですね。
確認した所では、中二病患者のAIを積んだスペースコロニーが降ってきたくらいです。CV福山潤。
無ければ無いで寂しいような気もしますが、多分気のせいなので、「まりあ†ほりっく」を楽しみながら春を待とうと思います。「化物語」と「戦場のヴァルキュリア」はどうなるんかのう…